1.無難な映画紹介
はい。まずは未見の方の為に、軽い紹介を。
この映画を一言で表すと、もうそのまんま『奇妙な談』。これに尽きます。
主人公の失われた記憶の謎、神隠しの謎、神隠しから帰ってきた者の謎、神隠しの原因の一つとみられる『はなれ』と呼ばれる集落の謎。物語は多数の謎を織り交ぜながら、閉鎖的な村に起こる奇妙な出来事の数々と共に、衝撃のラストへと向かっていきます。
全編通して伝わってくる不気味さ。そして、数々の謎。そんな、怪奇的雰囲気に酔いたい方……そして、『第二の人類』という言葉に妖しげな魅力を感じる方。もし良ければ、ご観賞下さい。
『奇談』としか言い表せない独特の世界が、ここにあります。
2.ネタばれ有り個人的感想
それでは、ここからネタバレ有りの僕の感想に移りたいと思います。ネタバレ見たく無い方は、ここから先はご遠慮下さいね。
では、正直な感想。えー……ホントに凄い映画でした。
何が凄いかっていうと、もう設定そのものが凄い。度肝を抜かれました。
最初の隠れキリシタンの話から、まさかイエスの奇跡の再現に至るとは。まさか地獄が出て来るとは。正直、予想だにしませんでしたよ、僕は。
この怒涛のストーリー展開。そして、意味ありげな登場人物の数々と、『それっぽい』空気の演出。とても上手です。グイグイ引き込まれてしまいました。
個人的に残念なことは、阿部ちゃんが演じる大学教授の役に、クセが無さ過ぎたことですかね。クセが無い役を演じるのって逆に難しいのかも知れませんが、もうちょっと人間臭さが欲しかった。
まぁ彼の役割を考えると、それは無理な話なのかもしれません。彼は『知恵の実』を食べた人間の中でも、『生命の実』を食べた人間たちの動きを説明するいわば『理解者』。普通の人類、そして第二の人類の中間に在らなければならない存在なのですから。
そう考えると、逆に『知恵の実』側の人間、つまり主人公や神父様などは、非常に人間味のある方々ばかりでした。
特に、神父様。最後まで第二の人類の話を信じようとしない姿は、本当に人間臭くて大好きです。彼は完全に『知恵の実』のイエスを信仰する立場ですし、ああなったのは当然なんでしょうね、きっと。
……まぁ、そんな神父様に「そんなことばっか言ってるからアンタは学会を追放されるんだ」とか言われちゃった阿部ちゃんは、正直可哀相でしたけど。大丈夫! アンタ十分凄い人だから! 世間的には変な人だろうけど!!
ただ……すいません、ラストの「オラと一緒にパライソいこうぜ」発言は、笑っちゃいました。『Siren』の時といい、どうして俺は核のシーンで笑っちゃうんだろう。どうしたもんかな……。
そんな『奇談』ですが、多分世間的な評価はあんまりなんでしょうね。話題に上る事もあまり無いようですし、どっちかっていうとマイナー?な映画なんでしょうか。
そもそもコレ、結構人を選ぶ映画でしょうしね。僕はこういうの大好きですが、観る人によっては「……なんだこのトンデモ話」と思ってしまうかも知れません。うーん……。
でもま、やはり個人的には好きな作品です。もっと多くの人に観てもらいたいなぁ、と切に願わずにはいられない、そんな映画でした。
……あ、そうそう。最後に一つ、この映画のある点について、自分なりの推測を。
この映画での『ユダ』役である『ジューダ』さん。彼が何を裏切ったのか、という点は、物語の中で明確に描かれることはありませんでした。
コレ、自分なりに考えてみたんですが、『他の人がインフェルノに行くことを選んだのに対し、彼はそれを恐れて行かなかった』ことなんじゃないでしょうか?
他のハナレの方々は、ジューダさん以外いなくなってました。多分、ジューダが駐在さんのところへ訪れた頃には、もうみんな地獄へ落ちてたんでしょう。
しかし、彼はそれをしなかった……つまり、『イエス』を信じなかったわけです。
うん。裏切りくさいですね、実に。
しかし、その代償として、彼は奇跡によって天国へ行くことが出来なくなった。そして、最後に阿部ちゃんが目撃したように、彼は仲間のいなくなった一人ぼっちの世界を、寂しく歩き続ける。ただただ、「私も連れて行ってください」という言葉を呟きながら。
聖書でのユダは、イエスを売った後、自らの罪に苦悩しました。後に自ら命を絶ったほどですから、それは相当な地獄だったでしょう。
そう考えると、両者は哀しいほどに同じ末路を辿っていますね。自らの作った地獄の中、たった一人で苦しみ続ける。
ある意味、彼らが落ちることになっていた『インフェルノ』より、一人ぼっちの世界の方がよほど、苦しいものだったのかも知れません。