ゲームとは違うよ

『Siren』

ジャンル:ホラー
監督:堤幸彦
主演:市川由衣、田中直樹

ストーリー

弟の治療のため、家族ぐるみで、とある小さな島に引っ越してきた主人公。
が、引越し早々、彼女は隣人の女性に『サイレンが鳴ったら外に出てはいけない』という謎の忠告を受ける。
不気味な住人たちの言動、島に伝わる怪奇的な人魚伝説、数十年前に起こった集団失踪の謎、闇夜に響く『サイレン』の音。
やがて暗闇に閉ざされた島の中で、三度目の『サイレン』が鳴り響く。
果たして、『サイレン』とはなんなのか? そして、主人公は『サイレン』を止めることができるのか?
『サイレン』の鳴り響く中、たった一人のサバイバルが始まる……。







1.無難な映画紹介


 まずは、未鑑賞の方向けに軽く紹介しましょう。あ、ここに書いてる分にはネタばれはありませんので、安心してお読みください。
 えっと……まず、映画の見所云々を語る前に。一つ、言っておかなければならないことがあります。
 この『Siren』、同名のホラーゲームの実写作品です。が!
 この映画とゲームは、設定から何から何まで完全に別物です。「ゲームが好きだから!」という理由でこの映画を観ると、色んな意味で恐ろしい目に遭いますのでご注意を。
 さて、ゲームと切り離して考えた際のこの映画、やはり一番の見所は、物語で度々登場する『サイレン』でしょうか。
 真っ暗な闇の中、突如響き渡る『サイレン』の音。そして、「サイレンが鳴ったら外に出てはいけない」という謎の忠告。
 それだけでもやたらと恐怖を掻き立てられるというのに、島の住人ったらまぁ不気味な方々ばかりです。
 その上、ある時期を境におかしくなってしまう主人公の父や、数十年前に起きた集団失踪事件、または島に伝わる気持ち悪い人魚伝説などなど、恐怖を掻き立てる演出はいっぱい。
『雰囲気だけで怖い』。この映画を凝縮すると、この言葉に落ち着くのではないでしょうか。
『サイレン』を駆使した独特の演出に酔いたい方なら、一度観てみるのもいいかも知れませんね。









2.ネタばれ有り個人的感想




 ……では、以下、ネタばれ有りのマジ感想に入ります。ご注意を。
 はい。というわけで、サイレンですね。
 観た方なら分かるでしょうけど、この映画……オチを許せる人と許せない人で、歴然とした評価の差が出来上がる映画です。
 一応、オチ以外にも語るべきところはあります。途中で出てくる屍人の中途半端さとか、たまに出てくるCG丸分かりのしょぼい映像とか。
 特に、鉄塔から屍人が落ちていくときの映像ね。アレは正直、笑いました。すいません。
 ですが、やはりこの映画、語るべきところはオチだと思います。ええ。
 えーこの映画のオチ。映画としては絶対にやってはいけないことをやってしまっていますね。実は主人公の一人相撲だという。
 殆どの方は、これを観て「えーーー!!!???」と思うでしょう。ってか、僕は最初、そう思いました。何だよコレ、って。
 しかし、です。ここはみなさん、発想を逆転させねばならないところですよ。
 こう考えましょう。『これはホラー映画という触れ込みを使った、高度なサスペンス映画だったのだ』、と。
 ……。
 厳しいですか? そうですか。うーん……。
 でも、ですね。個人的には、やはりこの考えが一番しっくりくると思うのです。
 そう思う根拠は一つ。あのオチを持ってくるには、映画全体が『ホラーしすぎている』こと、です。
 この映画、観終わってみると、回収されなかった伏線が面白いくらいに出てきます。人魚伝説は一体なんだったのか、あの赤い服来た少女は一体なんだったのか。村の人々がやってた、あの変な儀式は一体なんなのか。
 実際、物語後半まで、これらの要素は『それっぽく』物語を紡いでいく要素となっています。これらの要素は、一体何のために描かれていたんでしょう?
 勿論、恐怖を掻き立てるため、ということもあるんでしょうが、僕はそうは思いません。
 これらは、『オチを読ませないためのトリック』だったんじゃないでしょうか?
 だって、普通思わないでしょう? 全体的に不気味色一辺倒の映画が、まさか主人公の一人相撲だったなんて。正直、僕はオチ見て愕然としましたよ。まぁ読みが弱いだけなのかも知れませんけど。
 物語において、オチというものはかなり重要な位置を占めます。それこそ、その物語の印象を決定付けてしまうほど。
 そして同時に、それは『オチを先読みされたら、物語の面白みが半減する』といっても過言ではありません。多分。
 この映画は、確かに禁じ手スレスレの結末を描いています。けれど、逆に言えば、多くの人はこの結末を予想もしなかったんじゃないでしょうか?
 これは、原作ゲームファンならなおさらです。ホラーと思っていたものが、まさかあんなことになるとは。ホラーという印象を持って観た人ほど、この驚きは大きくなります。
 これ、実はサスペンス映画の本質そのもののような気がします。鑑賞者に予想もつかないラストを突きつけ、驚愕させる。そして、その予想もつかないラストを導くために、製作者は様々な趣向を巡らせる。
 そうです。あのオチを導くため、製作者が巡らせた趣向が、『ホラー映画としての印象』なのです。
 実際、この映画の監督を務めたのは、『トリック』で有名な堤監督。この名前を出すだけで、一気に僕の考えが現実味を帯びるのが不思議ですね。
 オチを読まれないために、ジャンルそのものをトリックの材料にする。ある意味、恐ろしいまでに緻密、かつ巧妙な心理トリックです。そりゃ騙されても仕方ありません。だって、この映画を観ようと思った瞬間から、鑑賞者は罠にはまっているのですから。
 って言っても、主人公に聞こえていたサイレンって、実は幻聴じゃなくて、何らかの呪いである、って話もあるようなんで、『サスペンス映画』と言い切っちゃうのはちょっと怖いですが……まぁいいや。個人的には、コレはサスペンス映画だと思います、うん。
 ……。
 ……まぁだからと言って、あのオチを許せるかどうかは別問題ですが。
 いくらサスペンス映画として捉えても、何か……ねぇ? 釈然としないものは残ります。
 ただ、こういう映画があってもいいとも思うんですよ。普通のホラーもあれば、鑑賞者を巧みにはめるこんな映画もある。それが映画の醍醐味だと思いませんか?
 他の映画と一線を画す、個性付けがなされた素晴らしい映像作品。少々大げさな気もしますが、僕はこの『Siren』という映画を、そういう風に評価したいと思います。ええ。
 ……。
 ……個人的には、阿部ちゃんがあんまり出てこなかったのが、ちょっと残念でしたけどね。






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