1.無難な映画紹介
はい、というわけで久しぶりのレビューのお時間がやって参りました。社会人になって初です。ダメだなぁ俺、もっと色々書けよ。
まぁそれは置いといて、今回紹介しますのは、『THIS IS IT』。マイケル・ジャクソンという誰もが知るアーティストの、貴重なドキュメンタリー映像です。
はい。ドキュメンタリー映像なので、特にストーリーなどはございません。公演に向けてのリハーサルを重ねる、世界でも超一流のクリエイター。その姿が、鮮明に、力強く収められています。
「でもそれってファン向けなんじゃないの?」とお思いのそこの貴方。
大丈夫です。別にファンでも何でもない僕が観ても、気付いたら二時間経ってました。
誰もがどこかで一度は聞いたことのある楽曲と、メリハリのある世界最高峰のダンス、そしてマイケルの力強く、時には他の何よりも美しい歌声。
ファンなら勿論、「マイケルって名前だけしか知らない」という方にもお勧めの映画です。
『惹きこまれる何か』が、ここにあります。
2.個人的な感想
まず断っておきたいのは、上でも述べたとおり、僕は別にマイケルのファンでも何でも無かった、ということです。
有名なのは知ってますが、曲をちゃんと聴いたことはありません。『スリラー』とか『ムーンウォーク』くらいなら知ってますが、それだけです。正直、この映画も会社の先輩からの勧めが無かったら観てなかったと思います。
で、それを断った上で、感想。
マイケルすげぇ。
A.マイケル! マイケル!
……物凄く不思議な感覚です。何で気付いたら二時間経ってたんだろう? ストーリーも特に無いし、舞台裏の映像と彼の歌い踊る姿が収録されているだけなのに。何で?
よく分かりませんが、マイケル・ジャクソンという人間が凄い人である、ということは疑いようが無いです。
キレのある、誰よりもカッコいいダンス。歌声。演出に対する並々ならぬ意欲、発想力。『一流』ってのがどういうものなのか、定義は良く分かってないですが、この映画を通してみるだけでも、彼の実力は無知の僕にさえはっきりと分かります。
特に、演出力。本作にはリハーサル中、「ここをこうして」とスタッフに指示を送るマイケルの姿がよく収められていますが、彼の言ったとおりにスタッフが動くと、途端に舞台のレベルが上がります。いや、あくまでも僕がそう感じただけなのかも知れないんであんまりデカイ口叩けないですが、それにしたって素晴らしい。にわかがそう言い切れるくらい、マイケルの姿が輝いて見えます。
あと、ダンスも勿論凄い。これで五十歳? と思ってしまうくらいにカッコいいです。ダンスに関して超ド素人の僕がこういうのもなんですけど、ホントに。むしろダンス見てるだけでも十分面白いかも知れない。それくらい、全編通して彼のダンスは凄いです。何だ、凄い凄いばっかり言ってボキャブラリー無いな俺。でもホントに凄いからどうしようもない。そんな感じ。
……とまぁ、ここらで一旦、マイケルへの賞賛はストップしましょう。僕が言わなくても、彼の凄さは既に全世界レベルで知れ渡っていますし。何を今更、といった感じですよね。
ってわけで、ここからはちょっと話を変えます。
B.『THIS IS IT』の持つ意味について
別に日本語訳の意味(さぁいよいよだ)とかについて話したいのではありません。何を問題としたいかというと、こういうことです。
『何故THIS IS ITは創られたのか?』
本作にストーリーというものは特に存在しない為、今回は敢えてこういう制作そのものに関する考察を行ってみたいと思います。あ、ちなみにここから先は完全に僕の感想というか、ただ感じたことの話になってくるのですが、「こういう風にも捉えられるよね」という感じで読み進めていただけたらと思います。
さて、何故創られたのか? 資本主義のこのご時勢、真っ先に聞こえてくる言葉は恐らくコレでしょう。
「金になるからだろJK」
はい、非常に分かりやすくそしてこの世の全てを一言で表した、どうしようもなく素晴らしい答えですね。うん。特に間違いはないと思います。
おおよそ商業的な作品が制作されるに当たって、この「儲かるかどうか」という部分は絶対不可欠な要素です。創るのだってタダじゃないんだから。赤字出ても大丈夫なのは同人作家くらいですよ。ホントに。
まぁそういう話は一端置いておくとして、この儲かるか否かの判定を見事クリアした結果、本作が作成される運びになったのであろうことは言うまでもないと思います。マイケルほどのアーティストならファンが買ってくれることは間違いないですし、最初からほぼ儲けは約束されています。そして、何よりファンは喜ぶ。どこにも敗者のいない、見事なWin-Winの形だと思います(Win-Winってもう死語って聞いたことあるけど、ホントのところどうなんだろとかどうでもいいことをふと思った)。
しかし、です。
本当に、それだけの理由(儲けとニーズ)だけで本作は作成されたのでしょうか?
僕は、違うと思います。
じゃあ結局何が言いたいんだよ、というと。
この『THIS IS IT』という作品は、マイケルの遺志を少しでも世界に広めようとする、マイケルの仲間達の強い想いが込められているように思うんですよ。
本作を見ている限りでも、マイケルは何度も『愛』という言葉を使っています。ファンへの愛。スタッフへの、仲間への、家族への愛。そして、自分の住む地球という星への愛。
本作のラスト近くで、彼はスタッフに向かって言います。
「ファンの望みに全力で臨もう」
「世界に愛を取り戻そう。僕らはひとつだ」
「地球を守ろう」
マイケルが伝えたかったこと、訴えたかったこと。それは恐らく、真の意味ではマイケル自身にしか分からないことだと思います。
ですが、少なくとも、彼が『愛情』というものを広げようとしていることは、本作を通してみるだけで十分に伝わってきます。ファンを大事にしていたマイケル。生前はチャリティーや慈善事業への寄付を欠かさなかったマイケル。そして、環境破壊などに対してのメッセージを、歌という媒介を通して何度も伝えていたマイケル。リハーサルに全力で取り組む彼の姿からは、その想いが真剣であることがよく汲み取れます。
ですが、彼は亡くなりました。公演までもう少しというところで。
亡くなる直前のマイケルが何を思っていたのか、そして亡くなったと聞いたスタッフ達がどう思ったのか。それもまた、当事者達にしか分からないことです。
ですが。僕は思います。
彼らは、亡くなったマイケルの遺志を、彼の思いを、少しでも継ごうと思ったのではないでしょうか? 愛情と言う形の無いものを、多くの人々に発信する。それは少なくとも、マイケルの望みであったはずです。
予定されていた公演はマイケルにしか出来ない。だから彼らは、彼らなりの形で、マイケルの気持ちを少しでも世界に放とうとした……そんな想いが、本作からはビシビシ伝わってくるような気がするのです。
インタビューにて、マイケルへの尊敬の念を口にするスタッフ達。
「I love you.」と言うマイケルに対して「We love you!」と叫び返すダンサー達。
そして、まるで彼がまだ生きているかのような錯覚を覚えるほどの、洗練された映像の数々。
その全てから、マイケルという人物に対する、スタッフの深い愛情を見つけることが出来ると思います。
そして、だからこそ、僕はこの『THIS IS IT』という映像作品が創作されたこと自体を、素晴らしいと思わずにはいられません。
何故なら、こうしてこの作品が創作されたということこそ、マイケルの伝えたかった『愛情』というものが、この世に存在しているということに他ならないのですから。
……とまぁここまで話しといて言うのもなんですが、愛情愛情って言ってて自分でもちょっと気持ち悪くなってきました。僕は正か負かでいうと間違いなく負に属する存在なので、そういう綺麗な言葉には妙な抵抗を覚えるのです。バランス取るためになんか下品な話でもしましょうか。そうですね。僕が職場で思いっきりエロサイト開きかけた話とかします? ん? 必要ない? そりゃ失敬。
まぁ、なんでしょう。ただの音楽ドキュメンタリーとしても観れるけど、そういう方向性で観ると、何かもっと色々感じることが多くなるかもしれませんよ、ということを言いたかった。まぁ若干考えすぎな気もしますが。
しかし、ストーリーとか無くても、映画って普通に観れるものなんですねぇ。スゲェなぁ。
そんなことが学べた、いい映像作品でした。以上ッ!