つまり、何かあると跡が残るものだ

『シャイニング』

ジャンル:ホラー
監督:スタンリー・キューブリック
主演:ジャック・ニコルソン、ダニー・ロイド

ストーリー

冬季の間、深い雪のために閉鎖されるホテル、オーバールック・ホテル。
小説家志望のジャックは、そのホテルで、管理人として一冬を過ごすことに。
だがそのホテルは、過去に忌まわしい出来事の起こった、曰くつきの物件だった。
妻のウェンディ、息子のダニーと共に始まったホテルでの生活。その中でジャックは徐々に、しかし確実に『何か』に侵されていく。
この惨劇から逃れられる者は、果たして?
スタンリー・キューブリックが放つ、スティーブン・キング原作の傑作ホラー。







1.無難な映画紹介


 まずは恒例の無難な映画紹介。何か最近この項目いらない気がしてきたけど、まぁいいや。ホントにいらないと思ったら止めよう。
 で、えっと、シャイニングですね。あまりにも有名な傑作ホラーです。
 雪の為、陸の孤島となった古いホテル。そこで管理人として暮らすことになった家族。しかし、そのホテルは昔、同じように管理人として暮らしていた家族が、皆殺しにされたという曰く付きの場所。
 最初こそ父親のジャックは平気な顔をしていますが、月日が経つにつれ、徐々に徐々に狂い始めていきます。
 そして、その最中で超能力『シャイニング』を持つ息子、ダニーが見る様々な『悪夢』。エレベーターから噴き出す血の洪水、不気味な双子、そして何かが『居る』237号室……。
 ホラーが嫌いな人はともかく、好きな人は一見の価値アリ。最近の映画では味わえない、『気持ちの悪い恐怖』を存分に味わえること請け合いです。








2.ネタばれ有りの素直な感想




 えーっとですね。シャイニングですね。うん。まぁ。何と言うか……一言で感想を言うと……。
 ……。

 気持ち悪かったです。ホントに。

 ……うん。凄い映画だと思います。ここまで気持ち悪さを観客に与えられるとは。
 さて、もしかしたらここで、一部の人はこう思うかも知れません。
「え? 『怖い』じゃなくて『気持ち悪い』の?」
 はい。『気持ち悪い』んです。怖いってのとはちょっと違った、生理的な不快感があります、この映画。そこらへんが多分、他のホラー映画とは一線を画すところなのでしょう。

 では、何が気持ち悪いのか。
 答えは簡単。『明確な恐怖映像が出てこないところ』です。
 どういうことかと申しますと、この映画、幽霊やらがはっきり出てきてる場面って極端に少ないのですよ。
 例えば、『リング』なら貞子に関する場面はバッチリ貞子さんが出現されますし、『呪怨』なら最初っからバンバンとしお君が出てきます。『13日の金曜日』ならガンガンJ孫さんもいらっしゃいますし、『ドーンオブザデッド』ならゾンビ軍団が街を疾走されます。
 ですが、この映画ではそれがありません。『何か良く分からない気持ち悪い映像』が、超能力を持つダニーの視点から語られるのみ。物語の後半、奥さんもなんか変な着ぐるみ着たヤツとか見ますが、あれも正直結構シュールな映像で、見ようによっては笑えます(っていうか俺は笑った)。唯一幽霊っぽいのが見られるとしたら、同じく物語後半に出てくる頭から血を流してるオッサンくらいですが、あれも正直唐突過ぎてなんだか……。

 そもそもこの映画、原作知らないと本当にホラーなのかどうかも疑ってかかれます。っていうか、僕は最初疑って掛かってました。『極限状態における発狂した人間』視点の、『現実と妄想の交錯した』映像かなぁとか思ってました。
 まぁその考えは中盤、ジャックが閉じ込められた倉庫から『何か』の力を借りて倉庫の鍵を開けたところで吹き飛んだんですが、ぶっちゃけ、あのシーンもはっきりと『何か』が手助けしてくれたというような描写は無いんですよね。だから、あれも見ようと思えば、『極限状態で息子と似た力に目覚めた男が、超能力で扉を開けて妻子を襲い始めた』という風にも見れなくはないのです。かなり厳しいですが。

 『明確な恐怖映像が出てこない』とは、つまりそういうことです。本来ホラー映画なら当然あるべくして収められているはずの『怖い』映像が、あまりにも漠然としすぎている。そしてその結果、観客はそれに『恐怖』と同時に、強い『気持ち悪さ』を感じる……。
 多分、キューブリックが狙ってたのって、こういう感情なんじゃないかなぁと思います。あくまで僕個人の意見ですが、何と言うか、そう思わせるに至る幾つかの鍵がこの映画には存在してるんですよね。
 ダニーの度々見る映像なんかは、その最たる例でしょう。彼が超能力『シャイニング』を発動している間、音楽は単調で甲高い……そう、ちょうど耳鳴りのようなものになっています。
 237号室なんかもそうですね。ジャックが抱いた女が、腐った婆さんの体になっていたあのシーン。あの後、ジャックが237号室を去るまでの間、婆さんによる超☆アグレッシブな笑い声が響き渡りますが、あれにはっきりとした不快感を感じた人は少なくないハズ。


 こんな話を聞いたことは無いでしょうか。『人間は未知のものに対して恐怖を抱く』
 確かに、それは道理です。よく分かんないからこそ怖いわけで、自分を襲ってきた幽霊が実は冗談半分の友人だったりしたら間違いなく誰でも殴りかかるでしょう。何か例えが間違ってる気もしますが。
 それは置いといて、この映画について考えると、まぁ綺麗にこの道理に従っているように見えるのです。

 そもそもこの映画、原作とは大分気色が違うそうです。原作は騒動の原因にあるものがホテルであるとはっきり描かれているそうなんですが、この映画ではそれは無し。あまりに原作と気色が違ったため、スティーブン・キングがドラマで作り直したくらいです。

 多分、キューブリックは意図的に原作と気色を違えたんでしょうね。自分の思う『恐怖』を作り出すために。それは確かに一般的な意味での『ホラー』からは遠いかもしれませんが、しかしやはり、観客に強い感情を与えるに至っている……。
 普通のホラーとはまた違った、変則的な『ホラー』。この映画を一言で言い表すとしたら、そう表現されるのが相応しいのかも知れません。





 いやー、でもホント、237号室は気持ち悪かった。あそこの婆さんの笑い声だけ未だに耳に残ってるよ。ありゃー名シーンだなと思うところしきりです。








 あ、そうそう。そういえば、この映画のオチについて話してませんでしたね。
 この映画のオチ……正直、意味分かんなかったって人、多いんじゃないでしょうか。
 はい。ご他聞に漏れず僕もそのうちの一人です。最後の映像を観て「……え? 何コレ」って思いました。
 でも、です。やっぱ、それはそれで多分、監督の狙い通りなんだと思います。
 あの映像を観て、「ジャックは前世からあのホテルに捕らわれてたんだ」とか「ずっと昔からの因縁があったんだ」とか「いやいや、あれはジャックがホテルに捕らわれたことの暗喩だよ」とか色々考えることは出来ますが、まぁそれは考え方次第ですし、ホントのところは正直、分かりません。多分、分からなくていいんでしょう。
 『意味の分からない気持ち悪さ』を演出してきたこの映画。そのラストシーンとして、あれ以上に相応しい終わり方は無いんじゃないでしょうか。
 
 
 以上で、シャイニングの項を終わります。ホント、気持ち悪い映画だったよ。あの婆さんはトラウマだ……。







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